大阪地方裁判所 昭和44年(わ)1929号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕そこで判断するに、判示第二の一の窃盗未遂犯人である被告人が、逮捕を免れるために川崎博一に対して暴行を加えた結果、同人に左前腕挫創の傷害を負わせたことは判示第二の二に記載したとおりである。ところで、逮捕を免れるための強盗(事後強盗)致傷罪が成立するための暴行は、相手方の逮捕力を抑圧すべき程度に達していることが要件とされているが、この程度はこれを抽象的に決すべきでなく、窃盗犯人が逮捕を免れようとしたときの具体的情況に照らしてこれを決すべきところ、前掲各証拠によれば、被告人は、判示第二の一の犯行後逃走したが、川崎博一および野球用バツトと木刀をそれぞれ携えた稲井保明(当時三二歳)ほか一名の者によつて追跡され、判示第二の二記載の場所でまず川崎博一に追いつかれ、同記載の経過により、同人の手をはらいのけようとして、同記載のように上記ドライバーを持つた右手をふりおろしたため、右ドライバーの先端を同人の左手に接触させ、その結果同人に長さ約三センチメートルの浅い左前腕挫創を負わせたにとどまり、被告人が公訴事実記載のごとく右ドライバーをもつて同人に突きかかり、或いは同人を刺した事実はなく、同人の蒙つた左上腕挫創は後記の如く同人が被告人をタツクルにより倒した際に生じたものであること、しかも被告人が同人に右暴行を加えたときにはその背後約一〇メートルないし二〇メートルの地点に上記の如く野球用バツトなどを携えた稲井保明らが迫つており、被告人も川崎博一もこれを認識していたこと、右暴行を受けた後川崎博一は掴んでいた被告人の左手を離したうえ、すばやく両手で被告人の両足にタツクルしたうえ、被告人をその場に仰向けに倒し、その場にかけつけ所携の野球用バツトで被告人を殴打した稲井保明らと協力して被告人の両手を後ろにねじ上げ、その右手から前記ドライバーを取り上げたこと、かくて被告人は、完全に逃走をあきらめ、おとなしく川崎博一らによつて現行犯逮捕されたことを認めることができ、これらの事実に照らすと、被告人の判示第二の二記載の川崎博一に対する暴行が、同人の逮捕力を抑圧するに足りる程度に達していたものとはたやすく認めることはできない。(石松竹雄 松本朝光 最上侃二)